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スタッフ同士の恋愛禁止令

先日友人と雑談していると「店長にスタッフ同士の恋愛(手をつないで街を歩いていた)を目撃され、別れろといわれている」ということを聞きました。


その友人は契約の更新期であり、店長に契約の更新を申し出たところ「別れなければ契約更新はない」と告げられたそうです。以前その職場で同僚同士の恋愛が発覚したときは、その当人同士の写真が張り出されたようです。

明らかにおかしな職場ですね。

 

アイドルの恋愛禁止の条項についての判決を参考に、検討してみたいと思います。

 

事例1

 

芸能プロダクションに所属していた女性アイドルが、男性ファンとの恋愛が見つかりグループを解散せざるを得なくなり損害を被ったとして債務不履行及び不法行為について損害賠償金等の支払いを求められたという事例

 

この女性とプロダクションの間の契約では、ファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合は契約を解除して損害の賠償を請求することができるの条項がありました。

 

この女性はアイドル活動をするにあたり恋愛禁止の条項について説明を受け、その内容を認識していた事実が認定できる。とし、本件交際が発覚するなどすれば本件グループの活動に影響が生じ、プロダクションに損害が生じうることは容易に認識可能であったと認めるのが相当である。そうすると、女性が本件交際に及んだ行為が、プロダクションに対する不法行為を構成することは明らかである。と債務不履行及び不法行為を負うとされ損害賠償が発生するとされました。


損害賠償額はプロダクションに生じた信用毀損は認められず、実際に生じたレコーディング費用などの総額の6割程度でした。


事例2

 

芸能プロダクションに所属していた女性アイドルの交際が発覚し、ライブに出演しなかった日以降1か月余の間プロダクションからの連絡に応じず損害を生じさせたとして、損害賠償金の支払いを求められたという事例

 

こちらもこの女性とプロダクションの間の契約ではファンとの性的な関係を持った場合、またそれによりプロダクションが損害を受けた場合。など他の項目も含め損害が出た場合、損害賠償請求ができるという契約でした。

 

本件契約は、プロダクションの指揮命令のもとに女性を従事させることを内容とする雇用類似の契約であったと評価するのが相当である。この雇用類似の契約とは、女性に対する報酬の額が具体的に定められていなかったこと等があるためです。

裁判所は本件契約はの規定にかかわらず、民法628条に基づき「やむ得ない事由」があるときは、直ちに本件契約を解除できる。としました。


本件契約の内実は女性に対し一方的に不利なものであり、女性は生活するのに十分な報酬も得られないまま、プロダクションの指示に従ってアイドル活動を続けることを強いられ、従わなければ損害賠償の制裁を受けるものとなっているといえる。ゆえに本件契約による拘束を受忍することを強いるべきものではないと評価される。このような本件契約の性質を考慮すれば女性には、本件契約を直ちに解除すべき「やむ得ない事由」があったと評価することができる。とされました。

 

この女性がライブに出演しなかった行為は債務不履行に該当するが、解除の効力発生後の活動停止については債務不履行に該当しない。とし、業務妨害ないし債権侵害の不法行為の主張についても、やむを得ない事由があるとしてこれを解除することは女性の正当な権利行使と認められるから、そのような不法行為に該当するとは認められない。解除までの期間においての逸失利益、信用毀損などの損害が生じたことも認められない。としました。

 

上記アイドルの恋愛禁止について2事例をあげました。


この2事例で学べることは

・恋愛禁止についての契約を交わしているか
・その契約が合意により成立し、合理的であるか
・その契約から発生する不法行為とは何か
・実際に損害は生じているのか

 

参考にしたアイドルの恋愛禁止については雇用契約上に恋愛禁止がふくまれ、恋愛をするといかなる損害が出るのかが重要である。


この2事例を参考に「遊技場スタッフ同士の恋愛禁止」を検討します。

 

1つ目「恋愛禁止についての契約をかわしているか」
これはその使用者との契約の際「恋愛禁止」についての条項が入った契約を締結しているかです。契約の際の雇用契約書などを読み、そのような条項が含まれていないか確認する必要があります。

 

2つ目は「その契約が合意により成立し、合理的であるか」です。
労働契約法では労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、または変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定または変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。です。
契約自体が一方的ではないか、恋愛禁止条項が含まれているのであれば、それを含むについて合理的な理由は一体何であろうか。
遊技場スタッフ同士の恋愛禁止で理由があるとするならば「恋愛において発生する労働時間内の風紀の乱れ(例えば労働時間内において業務と関係のない行動において業務に著しい支障をきたす)」くらいしか、わたしの足りない頭では予想がつきません。しかしこれは全ての業種に当てはまることで合理的な理由なのかと問われたら合理的ではありません。※業務外での恋愛においては対象にはなりません

 

3つ目「その契約から発生する不法行為とは何か」
1の事例では、交際が発覚すればアイドルが所属しているグループの活動に損害が生じ、プロダクションに損害が生じうることは認識可能であったと、不法行為として認められた。
遊技場スタッフ同士の恋愛禁止から発生する不法行為とは何か。なんであろうか。誰もが羨む美貌を持ち合わせている客寄せパンダさんを雇用していて、その方が店頭に立つと客数・売上が明らかに伸びるため、異性スタッフとの会話をお客さんが目撃すると暴動が起きかねないなどか。わたしの足りない頭ではこれくらいしか予想がつきません。

 

4つ目「実際に損害が生じているのか」
1の事例では恋愛発覚によりグループが解散に陥り販売できなくなったであろうグッズ、レコーディング費用などが損害と評価され損害賠償請求された。
2の事例では実際に損害が発生したことが認められず損害賠償請求はされなかった。
ようするに、実際にに損害が生じていなければ恋愛禁止に反したとしても損害賠償請求がされない。
この遊技場スタッフ同士の恋愛禁止において、実際に損害が生じるものとは一体何か。想像がつきません。


このように事例を参考に検討してみたのだが、使用者が恋愛禁止を求める合理的な理由が見つかりませんでした。
実際にはなぜ恋愛が禁止されるのか、友人を通じて詳しく使用者に内容を確認していただく必要があります。今現在の確認できる事実で述べられることは以上になります。

 

冒頭で記述した「別れなければ契約更新はない」や「当人同士の写真の貼り出し」はパワーハラスメントにあたる可能性があります。
次回はこれについて詳しく書きたいと思います。

 

 

最後に事例2において裁判所の出した判決がとても興味深い内容だったため書き出しておきます。


「アイドルが性的関係を持ったことが発覚した場合にファンが離れ得ることは世上知られているところであるから、アイドルをマネージメントする側が、その価値を維持するために、性的関係を制限する規定を設けることも、一定の合理性があると理解できないわけではない。しかしながら、異性との合意に基づく交際を妨げられない自由は、幸福追求の自由の一内容をなすものと解され、いかにアイドルという職関係を理由に損害賠償を請求することは、上記自由を著しく制約するといえる。また、性的関係を持った否かは、通常私生活上の秘密にあたるため、原告(プロダクション)が被告(女性)に対し性的関係を理由に損害賠償を請求できるのは、被告が原告に積極的に損害を生じさせようとの意図をもって殊更にこれを公にした場合等に限定して解釈すべきところ、被告が殊更にこれを公にしたとは認められない。したがって、性的関係を理由に被告が原告に対し損害賠償責任を負うことはない。」

 

と述べられました。